クマの親子~ラッセルが教えてくれる大切なモノ~

僕は小熊のラッセル。

優しくてフワフワの毛並みのお母さんが大好きなんだ。

だけどね、お母さんは毎日僕を置いてどこかへ出かけてしまう。

お母さんが帰ってくると、ご馳走をお土産に持って帰ってきてくれるけど、僕はご馳走よりも大好きなお母さんと一緒に遊びたくて仕方がないんだ。

「ねぇ、お母さん。今日もどこかへ出かけてしまうの?」

「ラッセル。仕方がないことなのよ。私たちは食べなければ生きていけない。だから、淋しい想いをさせてしまって悪いけど、少し我慢してほしいの。」

お母さんはいつも僕の頭を撫でながら言う。

僕はお母さんのことが世界で1番大好きだから嫌われたくない。

だからね、いつもお母さんを困らせないように、こう言うんだ。

「うん。わかった。だけど、早く帰ってきてくれたら嬉しいな。」

毎日こんなやりとりを繰り返して、お母さんは森の中へと消えていく。

その間、僕は家の近くで一人で遊んで過ごしていた。

淋しい。

お母さんと一緒に過ごしたい。

僕の心はいつも叫んでいた。

そんなある日、僕は心の叫びが爆発してしまって、お母さんを困らせることをしてしまった。

「お母さん、今日は何も要らないからどこにも行かないで!僕と一緒にいてほしいんだ!」

すると、お母さんは見たこともない顔で僕を怒鳴った。

「ラッセル。いつも言ってるでしょ?こんなに聞き分けのない子に育てたつもりはないわ。いいわね。もう赤ちゃんじゃないんだから、お母さんの気持ちを少しは分かってほしいの!」

お母さんは僕にそう言って、今日も森の中へと消えてしまった。

「どうして?お母さんと1日だけでもいいから一緒にいたかっただけなのに・・・」

僕は生まれて初めて目から涙を流していた。

もう遊ぶ元気もなくなってしまって、この日は外へ出ることもせずに、家の中で泣き続けていた。

家の入口に差し込んでいた光が、うっすらと暗くなり始めた頃、ようやくお母さんが帰って来た。

今日は太ったウサギをお土産に持って帰ってきてくれた。

僕は涙を流してばかりいたから、目が大きく腫れてしまったけど、お母さんは僕の頭を撫でながら「よく我慢できたね。」と言って褒めてくれた。

お母さんと一緒に夕ご飯を食べていると、口数の少ないお母さんが僕に話しかけてきた。

「明日は一緒に森の中へ行きましょう。」

僕はそんなこと言われたのは初めてだったから嬉しくて飛び上がった。

その時に天井に頭をぶつけて目の前で星がチカチカと回りだしたけど、その痛みを忘れてしまうくらい、気持ちが高まっていたのを今でも覚えいる。

「お母さん、明日はずっと一緒にいられるんだね。」

「そうよ、ラッセル。明日は一緒に森へ行きましょうね。」

僕は嬉しさのあまり、夜眠れなくなってしまったけど、フワフワのお母さんの毛並みに包まれながら、幸せな気持ちでいっぱいになった。

そして、朝目が覚めると、お母さんと一緒に森へ出かけた。

いつもは家の近くで遊んでいたから、知らない世界を目の当たりにして、僕は興奮状態になっていた。

「お母さん、今日は何をして遊ぶ?」

すると、お母さんは真っ直ぐ行き先を見つめたまま言った。

「もうラッセルも大きくなったから、今日はお母さんが生きていくための方法を教えてあげるわ。」

「すごいや。すごいや!」

僕は大好きなお母さんとこれからも一緒に過ごせるように、僕がご飯を用意して、お母さんを少しでも楽にしてあげたいと思っていた。

しばらくの間、お母さんと森の中を彷徨っていると、目の前に小さな狸の親子が現れた。

すると、お母さんはいつもは綺麗にしまっているキバと大きな爪を剥き出しにして、迷うことなく狸のお母さんに飛び掛かった。

それは一瞬の出来事だったんだけど、狩りを成功させたお母さんは僕の方をじっと見て、「次はラッセルの番よ。」と言って、狸のお母さんから離れずにいる子狸に目をやった。

僕は見よう見まねで飛びついた。

無我夢中で襲いかかった子狸は、気が付いたらもう息をしていなくて、僕は生まれて初めての狩りを成功させたことに驚いた。

「お母さん、僕のこと誇りに思ってくれる?」

「えぇ、もちろんよ。私にとってラッセルはかけがえのない大切な我が子よ。」

お母さんはそう言って、優しい微笑みを投げかけてくれ、僕は少し照れくさい気持ちになったけど、自慢の息子になれたことが嬉しかった。

その晩、僕はお母さんと一緒に夜ご飯を食べて、お母さんのフワフワの毛並みに包まれながら、ぐっすりと眠りについた。

だけどね、これが大好きなお母さんと過ごす最後の日になるなんて、僕は知らなかったんだ。

朝、目が覚めると、お母さんの姿はどこにもなくて、部屋の壁にはお母さんが爪で彫った手紙が残されていた。

「ラッセルへ。もう立派なクマに成長したわね。今日からは一人でも大丈夫。お母さんはいつもあなたのことを想っているから、それだけは忘れないでね。」

僕は突然の出来事に涙を止めることができなくなった。

「お母さんはどうして僕を置いて行ったの?こんなことになるなら、僕は大人になんてなりたくない!こんなことになるなら昨日、狩りなんて行かなければよかった・・・」

僕はお母さんの足跡をたどったけれど、途中で見失ってしまって、とてつもなく淋しい想いが心を締め付けているのが分かった。

そして月日は経ち、僕は立派な大人のクマに成長して、カワイイ子供を授かったのだけれど、奥さんは人間の狩りに捕まって2度と戻ることはなかった。

僕はカワイイ我が子のトニーと一緒に暮らしていたけれど、丈夫な体に育ってほしくて、毎日毎日トニーを家に置いて狩りに出かけていた。

僕はカワイイ我が子を育てることに必死だった。

厳しい自然の世界で生き抜いていくためには、強いクマに育てなければならない。

カワイイ我が子にはあまり苦労もさせたくないから、良い環境で暮らしてほしいと思っていたし、少しくらい淋しい想いをさせても仕方のないことだと思っていた。

そんなある日、僕が狩りに出かけようとすると、トニーが僕のお腹の横の毛を掴んだまま離さなかった。

「トニー、何をしているんだい?」

僕の言葉が耳に届いていないかのように、カワイイ我が子はただ黙って僕の目を見つめていた。

その目は何だか怯えているようにも見えたけれど、目からは今にも溢れ出しそうな大粒の涙が溜まっていた。

「すぐに帰ってくるから離しなさい。」

僕はそう言ってトニーの手を振りほどき、森の中へと向かっていた。

だけどね、森の中を歩いていると、忘れてしまった感情が蘇ってきて、小さな頃の出来事を思い出したんだ。

僕はお母さんが大好きで、一緒に過ごす時間が欲しくて堪らなかった。

だけど、その願いは叶うことがなくて、お母さんがいなくなってしまった日、狩りに出かけなければよかったと後悔した。

「もしかして、僕はトニーにも同じ想いをさせてしまっているのか?」

いきなり心がザワザワと騒ぎ、僕はトニーに会いたくて堪らなくなった。

そして森へ向かっていた足を止め、今度はトニーが待つ家へと走り出した。

「トニー、ごめんよ。」

僕は心の中で何度もトニーと名前を呼び、今まで自分がしてきたことに悔い改めた。

思いっきり全力で走ったせいか、家の前に着いた頃にはひどく息を切らしていた。

「はぁ、はぁ。トニー!トニー!どこにいるんだい?」

僕の大きな声に気づいたトニーは、嬉しそうな満面の笑みを浮かべて、思いっきり僕に抱きついた。

「お父さん。僕、お父さんのことが大好きだよ。ご馳走なんて毎日食べられなくてもいいから、僕と一緒に遊んでほしいんだ。」

「ごめんよ、トニー。今まで僕は大切な気持ちを忘れてしまっていたんだ。だけどトニーのおかけで淋しかった子供の頃を思い出すことができた。ありがとう。」

僕はそう言って思いっきりトニーを抱きしめた。

それから僕とトニーは一緒に森の中へ遊びに行ったのだけれど、カワイイ我が子があんなに顔をクシャクシャにして笑うなんて・・・

恥ずかしいことだけど、僕は今まで知らなかったよ。

「トニー、これからはたくさん一緒に遊ぼうね。」

僕がトニーにそう話しかえると、トニーは目をキラキラと輝かせながら思いっきり頷いて、「僕は何て幸せなクマなんだろう。」と喜んでいた。

おわり

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